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つむじが七つ、風のなか

普通の日記に混じり、同人的要素が含まれたものもごさいます。//二次元創作小説もございます。// 以上のことから、苦手な方、閲覧後にご自分で責任をとることが出来ない方はご退場くださいませ。// 完全に、つむじ奈々個人の趣味で作っているアレコレです。//版権元および原作者様とは一切関係ありません。// そのことをご理解の上、お楽しみください。
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落乱SS 北辰

落乱SS 北辰 (タソガレドキ 高坂と雑渡)

雑渡に「陣左」と呼ばせたい。
それにしても、夜勤って星しか話し相手がいない。寂しいです。
北辰=北極星

   北辰

 

見上げれば、そこは満天の星空だった。夏の夜を彩る星たちの応酬が響く。

思わず漏らした陣内左衛門のため息は、眼前を流れる暗い川に吸い込まれていった。断じて、星空に感嘆したわけではない。夜だというのにあまりにも明るすぎて、忍びの仕事がやりにくいのだ。薄っすらと浮かび上がる己の影を恨めしく見つめた。

「これは、参りましたね……」

 吐き出すように言うと、川で上着の血を洗っていた雑渡が顔を上げた。

「洗濯をしている身としては、手元が見えて助かるけど」

「私たちの仕事は洗濯じゃないですよ。それよりも、ちゃんと落ちたんですか、返り血」

 雑渡は上着を絞りながら頷いた。静かな川面に絞った水が尖りながら落ちていく。

 今回の忍務は実に単純なものだった。敵の陣営に入り込み、内部を混乱させる。ただし、単純だからといって、それが簡単だとは限らない。そのことは、雑渡の上着についた返り血が物語っている。危険だとしても、のんびりやっていたんじゃ意味がない。迅速に的確にことを運ばなければタソガレドキ軍に勝機はないのだ。勝つために必要な布石がある。それを任されているのだ。それなのに。なぜも煌々と明るいのだ。

「まあ、あちらさんも、こんな明るい夜に敵の忍びが潜入してくるなんて夢にも思ってないでしょ。意表を突けていいじゃない。陣左はもっと前向きに考えないと」

「組頭が楽天的すぎるんです」

 かといって、迷いは禁物。そもそも迷う暇はないのだ。忍務に首を振ることは許されない。与えられた選択肢は常に一つだけ。つまり、忍務の貫徹だ。

 難しい顔の陣内左衛門に、雑渡は笑った。

「月が出てないだけマシって思えば?」

 陣内左衛門は夜空を振り仰いだ。雑渡の言うとおり、そこに月の姿はない。だからこんなにも星の一つひとつがはっきりと見えるのだ。

明滅する星を順繰りに追っていると、ある一点で陣内左衛門の動きが止まった。小さな光の粒の中、ひときわ強い光を放つ星がある。

「北辰だね」

 陣内左衛門と同じ方向を見つめながら雑渡が言った。北辰は北を示す不動の星だった。動かない星。変わらない星。

 何かに似ていると思って、陣内左衛門は隣で同じようにして空を仰ぐ男を見つめた。いつも行く先を示してくれる人。陣内左衛門はそれが勘違いではなかったことをこころの中で密かに納得した。

「陣左」

 そう呼ばれ、我に返った。雑渡は静かに、しかしはっきりと言った。

「今まで色々済まなかった」

 突然の謝罪に陣内左衛門は言葉を失った。雑渡がぐんと遠くなったような気がした。こころの中で百年も千年も時が過ぎていったような気さえした。

 済まないって、何だよ。

ひたひたと張り付いてくる嫌な感触を振り切るように語気を強めた。

「何で、今そんなことを言うんですか」

「今だから言うんだよ。おかしい?」

「おかしいですよ。だって、明日も明後日もきっと、顔を合わせるのにそんなこと……」

 そんな今生の別れみたいな言葉は聞きたくない。

 不動なんて、そんなの幻想だ。そんなことは分かっている。この世に変わらないものなんてないし、絶対的なものもない。それは、星も人も関係なく降りかかってくる事象だ。

 陣内左衛門と雑渡の付き合いは長い。主従になる前から互いを知っていた。共有してきた時間も相当なものだ。けれど、そうやって歳月を重ねるということは、きっと、別れに少しずつ近づいているとういことなのだろう。

 でも、それはいつかの話であり、今日明日であってはならない。

 この人を死なせてなるものか。

 陣内左衛門はこぶしを握った。薄墨の空に淡く黄色に揺らめく星がある。もう二度と見失うことはないだろう。それが陣内左衛門にとっての不変だ。

陣内左衛門は雑渡の手を握った。

「思い出も、詫びも要りません。だから、私と一緒にタソガレドキに帰って下さい」

 雑渡は目を見開いた。そして、薄く笑った。

「……そうだね。それじゃあ、とっとと命懸けのいたずらを終わらせて帰ろうか」

 濡れたままの上着を羽織りがなら雑渡が言った。もう血のにおいはしない。見上げた空には相変わらず北辰が輝いている。手を伸ばし、彼方の星を指先に乗せてみた。束の間、遥かな時間に触れたような気がした。

 

終わり


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