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つむじが七つ、風のなか

普通の日記に混じり、同人的要素が含まれたものもごさいます。//二次元創作小説もございます。// 以上のことから、苦手な方、閲覧後にご自分で責任をとることが出来ない方はご退場くださいませ。// 完全に、つむじ奈々個人の趣味で作っているアレコレです。//版権元および原作者様とは一切関係ありません。// そのことをご理解の上、お楽しみください。
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落乱SS 白露 その1

落乱SS 白露 その1 (タソガレドキ、高坂と尊と小頭)

アニメ第18期の81話をまだ引きずってます。←弱点の話。
今回はタソガレドキの高坂の話……。ちゃんとそうなるのかな。
題名はちょっと過ぎてしまいましたが、二十四節気から。

拍手を下さった皆様、ありがとうございました。

   白露 その1

 

 見張り櫓から見える山々は夏の名残でまだ青い。その青色を、朝の薄い陽の光がより一層豊かで瑞々しいものにしていた。寒暖の差を少しずつ感じるようになったとはいえ、紅葉狩りができるようになるにはまだ時間がかかるだろう。もっとも、今はとてもそんな気分にはなれないが。

 櫓で頬杖をついた尊奈門の眼下にはタソガレドキの隠れ里があった。尊奈門たちタソガレドキの忍者が住まいを構える村である。朝日に染まる茅葺を眺めつつ、重だるく息を吐き出す。隣で遠眼鏡を覗いていた高坂がじろりと睨んできた。

「朝っぱらから何だよ。尊奈門のため息で、無駄に精神が消耗しそうで怖いぞ」

「済みませんねえ。どうせ私は、人様に悪影響しか与えませんよ」

 尊奈門はふて腐れて言った。どうもやさぐれていけない。それもこれも、みんな土井半助のせいだ。

「どうでもいいけど」

 高坂は遠眼鏡で肩を叩きながら、

「早く見張りを交替してくれないか。あと、そのいかにもおもしろくないって顔やめろ。朝から気分が悪い」 

「だって、おもしろくないんですもん。せっかく土井半助の弱点を見つけたのに」

「また勝てなかったのか」

「またって言わないで下さいよ。余計に落ち込みます」

 胸まである櫓の板壁に顔を伏せた。一度二度ならず、土井半助と対峙するのは今回で三度目なのだ。手ごたえくらいはあってもいいはず。弱点は見つけたし、それに対応する策も立てた。万全だった。それなのに。今回は、勝つ負ける以前の問題だった。邪魔が入って果し合いにもならなかったのだ。

「ところで、土井先生の弱点って何なんだ」

 高坂の問いかけに、尊奈門は顔も上げずに答えた。

「練り物です」

「はあ?」

 高坂にしては珍しく何とも間抜けな声だった。

「練り物っていうと、あのちくわとかはんぺんとかかまぼことか? それが弱点だからってどうやって勝負するんだよ」

 もっともな疑問を口にする高坂に、尊奈門は勢いよく顔を上げた。その勢いに驚いたのか、遠眼鏡を構えながら高坂が後退した。

「私っ、町で魚を買ったんです」

 よみがえってくる悔しい気持ちを押し込めて、尊奈門は力強く続けた。

「魚をすり身にして試行錯誤のうえに、なんとっ、武器を作りました。クナイとか手裏剣とかそれから、それから――」

「あー。いい、いい。もう分かったから」

 尊奈門の語尾を高坂の呆れた声が遮った。尊奈門はむっとした。ふところから土井半助を攻撃した際に余ったすり身手裏剣を取り出す。それを高坂の目の前に突き出した。

「ほら。ちゃんと見てくださいよ。よく出来てるでしょ。完璧でしょ。なのに、食欲ありそうな忍たまに土井半助を狙ったすり身武器を全部食べられちゃったんです」

「四方手裏剣だな……」

 尊奈門の突き出した物体を見て、本当にどうでもよさそうに高坂が呟いた。その顔は笑っている。呆れを通り越して馬鹿らしくなったらしい。練り物で武器を作るという策を思いついたとき、尊奈門は心底真面目だった。しかし、どうやらその行為は笑いを誘うものだったようだ。

 尊奈門はいい具合にきつね色に焼けた手裏剣を見つめ、息をついた。

「弱点は突けたのに、勝った気も優位に立った気もしません」

「はは。何かよく分からんが、食い物を粗末にするから罰が当たったんだ」

 そう言うと、高坂の手がすり身手裏剣を取り上げた。尖ったところを口に含む。もしゃもしゃ噛みながら、「なかなか美味いぞ」と感心した声を漏らした。

 風が吹く。秋の風だ。櫓が平地よりも高い場所にあるせいか、吹く風も少しだけ強く乾いたものに感じられた。その風に乗って百舌の鳴き声がかすかに聞こえる。突き抜けた空が見える。どこまでも続いていきそうな空だった。自分がとても小さな存在に思えてくる。

 どうして自分は駄目なんだろう。

 ふとした瞬間、尊奈門はいつもそんなことを考えてしまう。普段はまったく気にしないことでも、一度落ち込んでしまうともう駄目だ。ずぶずぶと思考の深みに嵌っていってしまう。ああでもないとかこうでもないとか、あのときこうしていたらとか。色々考えれば考えるほど、もがけばもがくほどぬかるみに足を絡め取られてしまう。

 尊奈門の悩みなど自分には関係ないという風に、高坂が大きく伸びをした。夜通しの見張りで強張ったらしい肩や首を回したり揉んだりしている。

 なんだよ。高坂さんってば。可愛い後輩がこんなに悩んでるんだから、もうちょっと気遣ってくれたりとか相談に乗ってくれてもいいじゃないか。

 尊奈門は高坂の薄情な振る舞いに口を尖らせた。恨めしげな視線を送る。と、高坂がその視線に気づいた。高坂は尊奈門の頭の上あたりを見て、次いで山の辺りにその目を泳がせ、やがて尊奈門と目を合わせて言った。

「尊奈門の弱点は、心配性で焦り性なところだよ。そいでもって、やたら細かいことを気にしたり、色々考えて一人で悩むところも弱点だな。自分のとった行動を疑問に思って、改善策を考えるのはいいと思うけど、考えすぎて身動きとれなくなるのはどうかと思う」

 そんなことは分かっています。

 そう言ってやりたかった。組頭にも言われたことなのだ。細かいことは気にするな、と。でもそういう性分なんだからしょうがないじゃないか。組頭や高坂さんとは違うんだ。いくら願っても望んでも、高坂さんのように恰好よくはなれない。

 そう。高坂陣内左衛門はとても恰好いいのだ。忍びとしても一人の人間としても。

 他人が恰好いいと、自分が恰好わるいような気がしてくる。他人がうまくいっていると、自分ばかりが空回りしているような焦燥感に襲われる。

 高坂さんが恰好わるいところとか、空回りしてるところとか見たことないな。この人にそんな部分があるのかな。もしあるのだとしたら、その時、高坂さんはどういう顔をするんだろうか。

 尊奈門の中に悪心がむくりと起き上がった。いけないとは思いつつ、逆巻く情動を抑えられない。自分と同じ悔しさを味わえばいいのだ、という身勝手なこころが徐々に強くなっていく。

 陽に縁取られた高坂の丹精な横顔を見たとき、尊奈門の言葉は得体の知れない力に引きずり出された。

「高坂さんの弱点、教えてあげましょうか」

「はあ? んなもんあるわけねえだろ。馬鹿言ってないでさっさと見張りを交替しろよ。俺はどっか行っちまった組頭を探しとけって、小頭から言われてんだ」

 尊奈門のくちびるが薄くめくれた。そのくちびるから、はっきりと、けれどいつもよりも格段に低い声が漏れる。

「組頭なら、忍術学園の善法寺くんのところですよ」

 ほんの一瞬だった。高坂の動きがぴたりと止まった。口許を引き締め、尊奈門を睨んでくる。色のない顔だった。

 高坂さんの弱点は組頭。予想通りだ。いや、高坂さんとは長い付き合いなのだ。そのことは昔からひしひしと感じていた。

 尊奈門の口角がさらに上がる。人を傷つけているというのに、尊奈門は落ち着いていた。その落ち着きを怖いと思いつつ、こみ上げてくる笑いを抑えられなかった。高坂の表情が尊奈門の思い通りになったからだ。尊奈門の言葉ひとつで、高坂はいとも簡単に平常心の面を剥がされてしまった。本当に、簡単だ。人のこころをくじけさせるのなんて、簡単だ。

「私を睨むのはお門違いですよ。組頭は自分の意思で忍術学園に――」

「分かってる」

 それは、まっすぐで静かな声だった。他のものを跳ね返すような、受け付けないような透明な声だ。今まで見聞きしてきたどんなものよりも、ずっと静かでずっと冷たくてずっと手の届かないところにあるものだった。尊奈門は頬を打たれたような気がした。尊奈門は自分の悪心を恥じた。

「……済みません」

「何が」

 問われて、口ごもった。ほんの少し興味があったのだ。この澄ました先輩が、自分の弱点を抉られたらどんな顔をするだろうか、と。でも尊奈門は後悔していた。高坂にあんな静かで遠い表情をさせてしまった。そんな顔をさせたかったわけじゃない。

 土井半助のときと同じだ。弱点を突いたはずなのに、勝った気も優位に立った気もしない。むしろ今は、自分が本当にみみっちい人間に思えてきて、情けなかった。

「なんで組頭を連れて帰ってこなかったんだ。明後日から遠征なんだぞ」

 そう言って憤る高坂の顔は、いつも通りの落ち着いたものだった。

「だって、組頭があんまり楽しそうに善法寺くんと話してるから――」

 そこまで言って尊奈門は口を押さえた。今度こそは、しまったと思った。青くなった尊奈門を見て、高坂はおかしそうに笑った。

「まあ、組頭の居所さえ分かっていれば迎えに行けるんだからよしとしよう。じゃあな、尊。見張りしっかりやれよ」

 ひらひらと手を振って、高坂の背中は階下に消えていった。

一人きりになると、狭いはずの櫓が、やけに広く感じられた。行き場を失ったように、乾いた風だけが吹いていた。


 つづく

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