さてさて、だんだんと春めいてまいりまして(といってもつむじの地方は雨ばかり)
なんといっても明日、三月六日は啓蟄! 虫さんたちもうごめきだします。
そんな気候がいい時期だからなのか、うちでも結婚式が増えてくるのが春なのです。
明日は結婚式が四組もあります。
「ちょっと、つむじさん。榊とってきてちょーだい」
身内とはいえ宮司命令。逆らえません。
つむじは結婚式に使用する、『玉串』のもとになる榊を所有の山へ採りにいくことにしました。
べつに、行きたくはありませんでしたよ。だって、山ですし。熊とか出たら怖いですし。
でもそれはそれ。行かねばっ。
保険委員会の気分で、高枝バサミと籠を背負い、軍手をはめて、いざっ!
うっそうと暗い、いつもの場所でハサミを動かしていると、なにやら背後で物音が。
ガサッ、ガサッ……
く、く、く、熊ですかっ? 熊だったら熊だったら、いやーーーっ!
なみだ目で必死に熊よけ鈴を振り回していると、聞きなれた声が、
「何してるの。遅いから様子見に来たよ。このあとご祈祷の予約入ってるし、早くしてっ」
仁王立ちでつむじの背後にいたのは、禰宜さんでした。しかも怒りぎみ。
だれもかれも、人使いが荒いのね、とほほ。
でも熊じゃなくてよかった。
