それでもお参りの方は早朝からいらっしゃいます。
つむじがお守り所の番をしていると、よわい九十近いようなおじいちゃんがヨロヨロとこちらへ向かってきます。
あわわ、倒れる? 倒れる? とハラハラしながら見ていました。
おじいちゃんは、しわしわの顔をつむじに向け、懐かしむように、
「わしはね、十五年前に結婚式でこちらに来たことがあるのよ」
それだけをつむじに告げると、またヨロヨロと立ち去っていかれました。
しばしの間、ぼーっとしてしまいました。
あのおじちゃんにも十五年前があって、つむじにも十五年前があって。
誰にでも昔があって。もっともっと、昔もあって。
おじいちゃんには、おじいちゃんではない昔が。
大人は大人ではない昔が。
子どもはもっと子どもの昔が。
不思議だな、と思ったのです。