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つむじが七つ、風のなか

普通の日記に混じり、同人的要素が含まれたものもごさいます。//二次元創作小説もございます。// 以上のことから、苦手な方、閲覧後にご自分で責任をとることが出来ない方はご退場くださいませ。// 完全に、つむじ奈々個人の趣味で作っているアレコレです。//版権元および原作者様とは一切関係ありません。// そのことをご理解の上、お楽しみください。
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落乱SS 安らい日和

安らい日和 (保健委員会)

安らい日和

 見上げれば空一面、桜の花が見えた。ちいさな花がくっつき合って、われよわれよと咲いている。
「うわー、見事に満開ですねー」
 天を仰ぎ、乱太郎がため息混じりの声をもらした。
 その隣で数馬がうなずく。
「本当だ。こんなところで仕事ができるなんてめすらしくツイてるな」
「あはは。それ、言えてますね」
 二人で声を合わせて笑っていると、すでに作業を始めていた保健委員長が剣呑な声を飛ばした。
「ちょっと、二人とも。それじゃあまるで、普段がどれだけ運が無いかって話だよ。確かに、桜がきれいなのは認めるけどさ。でも、こんなことくらいでツイてるだなんて。なんだか、もう、いじけてやるっ」
 伊作はがっくりと肩を落とした。あちゃー、と乱太郎が慌てて弁護する。
「あーいやー」
「中国四千年の歴史かよっ」
 数馬による突っ込みが山に響き渡る。
「だから、つまりですね。ああ、そんなに落ち込まないでください」
「乱太郎、もっと的確な弁護をしろっ。伊作先輩がいじいじしている。そんで、地面に何か文字を書き始めたぞ」
「そんなこと言われても。どうしましょう三反田先輩」
 乱太郎と数馬は不運不運と書き連ねている委員長を見て青くなった。そんなおろおろした様子を見て、伊作がくぐもった声をもらす。
「ごめん、ごめん。冗談だよ」
 こらえきれない、という風に大きな口をあけて笑い出した。安堵した顔で、乱太郎と数馬も笑った。
 伊作は目じりに涙をためながら、
「早く薬草とりを終わらせて、花見でもしよう」
 賛成の意を態度で示すように、三人は作業を開始した。
 今日は保健委員会の面々で裏山に来ていた。薬草採取のためである。
 言うまでもなく、保健委員会は忍術学園で使う薬の管理も任されている。
 もっと言えば、薬を作ることもその元になる薬草の管理も一任されているのである。たいへんに意義のある重要な委員会なのだ。
 その保健委員会を六年間連続でつとめてきたのが善法寺伊作である。六年生になった今では、委員長という役職を与えられていた。他人の目からは順当な結果で当たり前のように見えるのだろう。けれど、伊作は自分の立場にとても誇りを持っていた。他の委員会のように華やかな部分は無い。地味でもへたれでも不運でも、だれかを笑顔にするという部分ではどの委員会にも負けない自信があった。
 伊作はふっと空を見上げた。空の青さに引け劣らない桜色が広がる。風にあおられて花が誘うように揺れる。
 咲ききってしまったら、あとは散るだけなんだよね。
 桜の花が散るころは季節の変わり目。病気が流行りやすいのだ。忍術学園でも例に漏れず、そういう生徒が多くなる。そのために、早い段階で薬をしかも大量に準備しておく必要があった。
 かたまった腰を伸ばしながら、伊作は大きく息をついた。ずっと同じ体勢でいるのも楽じゃない。
 深呼吸すると春の香りが漂ってくる。何気なく目を遣った先に、満面の笑みで桜を見上げる乱太郎がいた。
「桜は好きかい」
 伊作の問いに、乱太郎はうなずいた。
「桜を見ていると、何だかこころが浮き立ちませんか。新しいことが始まるって感じがしてわくわくするんです。伊作先輩は――」
「きれいだとは思うけど、散っちゃうのが寂しいかな。もう終わりが来るんだって思うと気が気じゃなくなるよ」
 乱太郎は笑った。そよぐ花群れに目を向ける。
「桜の花には稲穂の神様が宿っているんです」
「え」
「小さいころからずっと聞かされてるんです。桜の花が満開なのは稲穂の神様が元気な証拠だって。だから稲の実りが豊かになる知らせなんだって。今頃、父ちゃんも母ちゃんも田植えの準備をしてると思います」
「――そうなんだ。乱太郎のおうちは半忍半農だものね」
 やさしい色にさそわれて見上げてみる。どの花も春の喜びを謳歌するように咲いていた。美しい。単純にそう思った。小さないのちの賑わい。豊かな未来の啓示。
 一瞬、強く風が吹いた。そばにいた数馬が、「あっ」と声を張った。
「散り始めましたね」
 薄紅色の欠片が空を舞う。どの一片もなんだか誇らしげに見えるのは人間のエゴだろうか。豊かな未来のために散っていく。
 そう思うと伊作は明るい気持ちになった。
「この桜が再び満開になるころ、ぼくはここにいないんだよねえ。それはひどく寂しいことのように思っていたけれど。でもそれは乱太郎や伏木蔵や左近や数馬の成長でもあるんだよね」
「先輩」
「ほらほら乱太郎、そんな情けない声ださないの。数馬も眉をハの字にしちゃって。幸せが逃げるから笑って笑って」
 乱太郎と数馬は顔を見合わせて、くすっと笑った。
 保健委員長でも忍術学園の生徒でもなくなったとき、一体自分はどんな人間になっているのだろうか。それは誰にも分からない。
 ただ今は、安らかに。終わるために別れるためにそんな日々があってもいい。


 終わり 


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