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つむじが七つ、風のなか

普通の日記に混じり、同人的要素が含まれたものもごさいます。//二次元創作小説もございます。// 以上のことから、苦手な方、閲覧後にご自分で責任をとることが出来ない方はご退場くださいませ。// 完全に、つむじ奈々個人の趣味で作っているアレコレです。//版権元および原作者様とは一切関係ありません。// そのことをご理解の上、お楽しみください。
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落乱SS 思い出の狭間

落乱SS 思い出の狭間 (タソガレドキ 高坂→雑)

雑渡さんは実際には登場していませんが、なんかとうとう、CPぽくなんてしま……。あう。
まあ、今更ですが。
さて。つむじは思い出をけっこう美化してしまう(どんなに悪いことでも)種類の人間なのですが、
というか記憶力が無いので、あまり思い出といった思い出もないわけですが、
とはいっても、思い入れは多分強いほうなので、物や場所や匂いをきっかけに、ふわっと思い出すことも
あったりなかったり。
皆様はいかがでしょうか。

   思い出の狭間

 ――俺はいつでもあなたの善き部下であろうとする。

 

川の水色が深い。昔はこういう川を見ると、大人たちが「竜が潜むようだ」と言っていた気がする。それを聞くと秋の訪れを感じたのを憶えている。

 高坂は川に突っ込んだ手を引き上げた。腕を軽く振る。飛び散る水滴が陽にきらめいた。

ちょうど、最後の桶を仕掛け終えたところである。桶だけではなく、この川底には壷やら竹筒やら色々と仕込んであるのだ。いわゆる、地獄落しである。川を渡ろうとした馬の足をとることで敵軍の足止めと時間稼ぎを、という作戦である。

 高坂が襷掛けを解いたちょうどそのとき、背後から声を掛けられた。

「見事な『地獄落し』ですね」

 高坂が振り返ると、岸にかがみ込み川底に目を凝らす尊奈門がいた。川よりも澄んだ目で、高坂の仕掛けた罠に感心している。

 高坂は川から岸に上がった。濡れた足裏に砂が纏わりつく。捲り上げていた袴の裾を戻しながら後輩を睨んだ。

「バカ尊。これくらい誰だって出来る」

「そう思ってるのは高坂さんだけですよ。仕掛けてる位置が絶妙で、ああ、このすごさを分かってないのって、ひょっとしたら高坂さんだけなんじゃないですか」

 そうなのだろうか。

 一瞬、高坂は黙考した。が、すぐに、そんなわけはないと改める。

「感心してんな。まだ作戦が成功したわけじゃない。ここを敵さんが通ってくれて初めて、俺たちのしたことに意味が生まれるんだ。ただ川の底にモノ埋めるだけなんて、そこらへんのガキにでも出来る。俺たちは結果を出してナンボの存在なんだぞ」

結果が出せなきゃ存在すら危うい。いや、存在している意味がない。

与えられた仕事を当たり前のようにまっとうしてこそだ。

誰も期待なんかしてないし、称賛もない。成功させるのが当たり前なのだ。それこそが当然のように求められる。

 仮に、高坂が今とは違う生業であったのなら、失敗しても結果をだせなくても、正面きって責められはしないだろう。むしろ労われるかもしれない。努力したとか最善を尽くしたとか、言い訳も人の同情を誘って叱責されることはないのかもしれない。

しかし、高坂は忍びだ。

結果が全てだ。

そのことに、何の疑問もない。それが忍びの世界で生きていくということだ。

罠なんて敵が掛かるように施して当たり前なのだし、敵を罠に嵌めるように誘導することも出来て然るべきなのである。

そこにあるのは、常に命令と結果だけでいい。

その命令と結果の行間に、どれだけの努力や研鑽が、時には犠牲があろうとも、「見事だ」なんて、そんな賛辞は介在無用だ。

余計なものはいらない。集中しなければならない忍務の時などは特に、だ。

無駄なものは邪魔なだけ。とみに、思い出などという代物は厄介意外の何ものでもない。

 高坂は自分のことが嫌いではない。嫌いではないのだが、良すぎる記憶力だけは時折呪うことがあったりする。

 思えば、この地獄落しも雑渡に教わったものだった。

 かなり昔のことだ。まだ、高坂は子どもといっても十分な歳だった。

 タソガレドキの里の忍者は、子どもの頃から遊びの中でその忍びの技を磨いていく。高坂も雑渡に遊んでもらいながら、否、遊ばれながら忍びの技を学んだ。

 高坂が「ちゃんと指導をしてくれ」と乞えば、雑渡は「お前は優秀でおもしろくない」と舌を出した。いかにも雑渡らしい切り替えしだと思ったが、この後、高坂が憤慨したのは言うまでもない。

 そう考えると、あの人は今も昔も変わっていないな。

記憶なんて、ただの過去だ。掘り返したっていいことはないし、まあ、覚えてるようなものだから、格段悪いってこともないんだろう。でも、所詮は過去。今じゃないし、まして明日のことですらないのだ。

 記憶が、思い出が無駄とは、そこまで辛辣なことは言わないが、それでも、無い方が身軽だろうなとは思う。それが美しければ美しいほど、忘れてしまいたいような気がした。

囚われるのだ。過去に囚われて今が停止してしまいそうで怖い。

 思い出さなければ、もはやそれは思い出ではあり得ないのだから、封じ込めておけばいいのだろう。

もちろん、高坂にだって、自分だけの場所に大事にしまってある記憶や想いはある。何重にも封をしてやわらかい絹みたいなもので包み込んで。

 それでも、わずかな隙間から、ちょっとした油断から、滲み出てしまうものがある。

 仕事の出来や鍛錬の成果を称賛されるたび、高坂は雑渡を想った。高坂の忍者としての価値観と技術は、すべて雑渡から受け継いだ賜物なのだ。

 高坂は体中で雑渡を思考できた。

 感謝でも感動でも感激でも喜びでも慈しみでも、もしかしたら既に言葉ですらないのかもしれない。この胸の内をせめぎ立てる、ただ一人への想いを言いたくて言えなくて堪らない瞬間がある。堪らなくて、それでも耐える時、小さく小さくなった高坂は、思い出の中の雑渡に集約されていく気がした。

「どうやらうまく行きそうですね」

 期待に満ち溢れた尊奈門の声に、引き戻された。尊奈門の強い視線につられて、そちらへ目を向けた。その視線の先には何もない。がしかし、わずかに馬の足音が聞こえてきた。

 高坂は視線を動かさないまま短く言った。

「ああ」

 そうだ。これでいい。きっとうまく行く。何もかもが滞りなく、秩序を保ったままで流れていく。

 高坂には能力がある。雑渡から受け継いだ技で雑渡を支える力だ。

命令と結果。

 その二つに、あるいはその狭間に。どんな過去もどんな思い出もどんな個人もなくていい。

 どんな情もなくていいのだ。

 きっと、言葉には出来ない。するつもりもない。

 だからこそ、高坂は己が忍びであろうとするたび、こころに強く念じた。

 ――俺はいつもあなたの善き部下であろうとする。

 旗指物を揺らしながら群集が近づいてくる。息を呑み、川に目を向けた。どこまでも水の色は濃く深い。耳を傾ければ、この世を確かに流れていく、水音だけが響いていた。

 

 終わり


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