忍者ブログ

つむじが七つ、風のなか

普通の日記に混じり、同人的要素が含まれたものもごさいます。//二次元創作小説もございます。// 以上のことから、苦手な方、閲覧後にご自分で責任をとることが出来ない方はご退場くださいませ。// 完全に、つむじ奈々個人の趣味で作っているアレコレです。//版権元および原作者様とは一切関係ありません。// そのことをご理解の上、お楽しみください。
MENU

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

落乱SS かさぶた

落乱SS かさぶた (雑伊)

今日から夜勤だ、と!?
つまり、イベント前夜夜勤そのまま→イベント→そのまま夜勤、、、ってことですね。
うん。スマイル、スマイル!

   かさぶた

 

 真緑の夏草に倒れ込んだ。尖った葉が頬をくすぐる。それがこそばゆくて伊作は笑った。

「余裕ぶっこいてていいの?」

 伊作の腹に馬乗りになった雑渡が口角をつり上げた。地に張り付けた手首を折れそうなほど締め上げてくる。カンカン照りの太陽が二人の影を濃く重ねていた。

「余裕なんて、ないですよ……。ちょっと怖いです。でも雑渡さんに力じゃ勝てないから」

 力じゃなくても、この人に勝てるものなんて一つもない。体格も頭の切れも何かに対する思いの強さも。

 顔が近づいてくる。伊作は雑渡の手首に切り傷を見つけた。古傷じゃない。つい最近負ったものらしい。それは完全に塞がりかさぶたになった傷だった。青く透ける静脈を阻むような一筋の線。

 伊作は目を見開いて、その赤黒い線を凝視していた。すると、雑渡がその視線に気づいた。

「何?」

「ここにかさぶたがあります」

 伊作は雑渡の手首を舐めた。一瞬、雑渡はぎょっとした。しかし、すぐに生真面目な表情に戻る。

「おいしい?」

 伊作は首を振った。

「いいえ。でも」

 言いよどんだ伊作に、雑渡は視線でその先を促した。

 この人は、自分の想いを押し付けてくる強引さとは裏腹に、伊作のどんな言葉も受け容れてくれた。決して、侮ったり突っぱねたりはしなかった。伊作のことを心底分かろうと努めているのだ。だから、いつも伊作は、自分の本当の気持ちを伝えることが出来た。

「安心しました」

 伊作は言った。

「雑渡さんの血が赤い色で」

「緑色だと思ってたの?」

「あなたは傷ついたりしないんだと思ってました」

 僅かに雑渡の拘束が緩んだ。動揺しているのだ。伊作は締め付けてくる手を払いのけ、今度は自分が雑渡の手首を掴み地に張り付けた。伊作は、今自分が押さえつけている手が何をしてきた手なのか知らない。でも、きっとたくさんの人を傷つけてきた手だ。たくさんの裏切りや偽りを孕んでいる手だ。骨も筋肉もしっかりしていて、頭蓋なんて簡単に砕いてしまえそうだった。それなのに、傷つけるだけの手なのに、傷が付いている。

 伊作は掴んだ手に力を込めた。

「案外、簡単に傷つくんですね」

「体はね。がっかりさせた?」

 茶化すように言う雑渡に、伊作は薄く笑った。

「あなたと同じものを食べても同じものにはなれないし、同じものを見てもそうでしょう。どんなに頑張ったって、雑渡さんと同じ世界を見ることは出来ないんです。見ることができないってことは、理解できないってことです。それは、一生、そうに違いないんです。だから、焦ってたんです。雑渡さんをどう見極めようかって。どうやって付き合っていこうかって。でも、今わかったんです。雑渡さんは簡単に怪我するし傷もできるし血も赤い。僕と全く同じで……つまりただの人間ってことです」

「そう、しかもちっぽけな、ね」

 褐色の肌からのぞく一つ目が細くなる。笑っているのだ。

「その事実に気づいて、気づいてしまったから、だから、僕はあなたの想いから身をかわす術を知らない。でも、応え方も知りません」

 どう対処するのが正解なのか分からない。

 熱く膨れた風が吹く。草がざわめく。背中を汗が伝っていった。

「何も知らないし、分かってないのに不思議ですよね。雑渡さんの身体の重みがちっとも嫌じゃないんです。今はっきりしてるのはこの気持ちだけです。それでもいいですか。それでも――」

僕から逃げないでいてくれますか。

「十分すぎる十分だよ」

 脱力した雑渡が倒れ込んできた。一気に重みが増す。さすがに苦しかった。けれど今、この重みは伊作だけのものだ。そう思うと指の先まで甘ったるく痺れた。重なり合った身体に熱が籠もる。全身の力が抜けていく。これを心地よいと言うのだろうか。

 すぐ隣に雑渡の顔があった。見慣れてしまったにやけ顔だ。

 この人は、これからもたくさん何かを傷つけるだろうし、きっと同じだけ自分も傷つける。でも、今日見たこの人の手首にあったかさぶた。あのかさぶたさえ忘れなければ大丈夫だ。

 伊作は雑渡の頬に顔を摺り寄せた。風に吹かれた夏草が祈るように傾いだ。

 

終わり


拍手

PR

Trackback

この記事にトラックバックする

× CLOSE

カレンダー

12 2025/01 02
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

プロフィール

HN:
つむじ奈々
性別:
女性
趣味:
お菓子の箱あつめ

フリーエリア

ブログ内検索

メールフォーム

アクセス解析

× CLOSE

Copyright © つむじが七つ、風のなか : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]